暁に咲く花 ――― 終 ―――
翠 はるか
草木が月光を受けて輝く夜、白南風が夏の庭を吹き渡っていく。
対屋からは、風に共鳴するように笛の音が鳴り響き、夜空に広がる。
音の元を追うと、月光をより感じるよう灯りを落とした簀子縁で、男女が楽しげに合奏していた。
篳篥のつややかな音と、龍笛の伸びやかな音は、つかず離れずの距離で合わさり、美しい音楽を奏でる。
ふと、その音の片方が途切れる。
女の横にいた童女が、その音を欲しがるように、女の膝に乗って龍笛に手を伸ばしていた。
男も笑って、演奏をやめる。
「姫君も笛に興味がおありかな」
演奏は止められたが、二人は楽しげだった。男が隣に腰かけて篳篥を膝の上に降ろすと、童女はそれも欲しがって手を伸ばす。
「これはまた、移り気な姫君だ」
男は童女を抱き上げ、階に立って、月を見上げる。
「今宵の月も美しい―――」
女も身を起こし、男の隣に寄り添う。
昔と変わらぬ月明かりが、今は三人を照らしていた。
<了>
終わった。終わった…! 感無量です。何年越しだろうw
蘭ちゃんに「黒龍の神子でいいんだよ」と言いたいために書いた話です。
友雅と蘭ちゃんの和歌をまじえた会話を考えるのが楽しかったな〜。
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