暁に咲く花  ――― 序 ―――

             翠 はるか



 白い花びらが、散っていた。
 夏の盛りを迎えた庭は、青嵐が吹き渡り、かぐわしい青葉の匂いに満ちている。そこへ、更に彩りを添えるように、白い花弁が舞う。
 不意に風がやみ、花びらは、向かい合って立つ二つの人影の間をすり抜け、大地に落ちた。
 それが合図のように、一人が口を開く。
 ――――元気で。
 もう一人も微笑み、答えを返す。
 ――――ええ、あなたも。
 また、青嵐が吹く。
 夏の風は熱く、強く、ひとつになった影を打ちつけた。

 

*** *** ***



 ――――どうしよう。
 日が傾き、薄闇が街を覆う中、少女は強張った足取りで、家路をたどっていた。
 ――――どうすれば、いいの?
 何度も、同じ問いかけを繰り返す。足先が血の気を失ったように冷え、地を踏んでる感触がしない。
 「……私……」
 答えを求めるたびに浮かぶ面影は、もう意味のないもの。それは、もう得られぬもの。
 自分は、全てを置いてきてしまったのだから。
 少女は不意に立ち止まり、己の腹の前で、両手指を組んだ。
 …いいえ、違う。違ったのだ。全てではない。ここに、ひとつだけ、私が持ってきたものがある。
 ひとつだけ、私に壊されなかったものがある。
 「――――……っ」
 少女の瞳から涙が溢れる。とめどなくこぼれ落ちるそれを、少女は両手で拭いながら、家路を急いだ。

 

 ――――――― それから、三年。


<続>


またまた友蘭です。
今度は、蘭ちゃんの幸せを追求していこうと思います(^^。

 

[次へ]

[戻る]