天真・愛の劇場 〜最愛の妹〜


 

永:「平和になりましたねえ」
  左大臣家自慢の庭を愛でながら、永泉はぽつりと呟いた。
永:「鬼の脅威が去って、京に平穏な日々が戻ってきました。
  兄上も、お心安らかに過ごされているようで、私はとても嬉しいのですよ」
鷹:「それは良うございました、永泉様」
  鷹通は、にっこりと笑って応えた。
鷹:「天真殿も、鬼に捕らわれていた妹御と、無事再会を果たされて」
永:「ええ。お二人がひしっと抱き合う姿は、本当に感動的でした」
鷹:「天真殿は、本当に妹御の身を案じておられましたから。…しかし、ねえ」
  と、鷹通は心配そうな視線を、永泉は愉快そうな視線を部屋の中に向けた。


天:「こら、友雅! 蘭に近付くな!!」
 (どこからともなく現れた天真が、蘭を横抱きにして、友雅から引き離す)
友:「おや、天真。今日は、泰明殿と神泉苑の後始末に行ったのではなかったか  な?」
天:「嫌な予感がしたから、泰明に任せて戻って来たんだ! ああ、やっぱり、戻っ  て来て良かった。俺の蘭が、こんな男の毒牙にかかろうとしてたなんて」
 (と、蘭の肩や背を、ゴミを落とすようにはたく)
天:「大丈夫か、蘭? 何もされなかったか?」
蘭:(困ったように)「お兄ちゃん……」
友:「ほら、蘭殿も困っておいでだぞ、天真。
  私は、ただ蘭殿と話をしていただけだ」
天:「嘘をつけ! お前が話だけで済むハズがないだろう!」
友:「おいおい、いくら私でも、こんな人目のあるところで、女人と戯れようなどとは  考えないよ」
天:「人目がなかったら、するつもりだったんだな!!」
 (胸倉をつかみそうな勢いで詰め寄る)
蘭:「お兄ちゃん。友雅さんは、本当に話をしてくれていただけよ。
  私が、慣れないところで不安じゃないかって気遣ってくれたんだから、そんな風 に言うのはいけないわ」
天:「いいや、蘭! こと女性関係に関しては、こいつは信用ならないんだ。純粋な  妹が、みすみす汚されるのを、俺は兄として黙って見てなんかいられない!」
蘭:「…………」(呆れる)
友:「おやおや、私はそこまで信用がないのかい?」
天:「当たり前だ! 十歳の子供にまで手を出すような奴が、信用できるか!!」
イノリ:「え!! それって、藤姫のことか!?」
詩:「本当ですか、友雅さん?」(疑わしげ)
 (友雅、がっくり肩を落とす)
友:「あのね……。いくらなんでも、それは誤解だ。…まあ、あと五年もすれば、考  えもするが……」
詩:「…やっぱり、ロリコンには変わらないんだ…」
イ:「何だ? その『ろりこん』ってのは?」
詩:「えーと、幼女が好きな人のことで……、一言で言うと、まあ、変態ってことか  な?」
イ:「そっか、友雅の奴って、変態だったのか」(妙に納得)
友:「こらこら……」
天:「分かったな、変態! お前は、これから、蘭の半径五メートル以内に近付くな
  !!」
友:「…また、良く分からないことを。だから、誤解だと言っているだろう」
頼:「…失礼します、蘭殿。藤姫様と神子殿がお呼びですが」
イ:「うわあっ! 頼久っ、お前、いきなり人の後ろに立ってんじゃねえ!」
頼:「…私は、先程からここに居たが?」
天:「お! いいところに来た、頼久。
  蘭を、さっさとあかねのところに連れて行って、このケダモノから守ってやってく れ!」
友:「…随分、扱いが違うのだねえ」
天:「当たり前だ、お前と頼久じゃ、天と地ほども違う!」
頼:「…良く分からないことになっているようだが…。とにかく、蘭殿をお守りすれば  良いのだな。
  では、参りましょう、蘭殿」
 (頼久、蘭を連れて退場)
友:「…どうして、私と頼久が、天と地ほども違うんだい?」
 (かなり怒っているが、表情は笑っている)
天:「ああ、あいつは安全なんだ。あかねに首輪をかけられてるからな」
友:「……君、真面目な顔でヒドイこと言うね……」

イ:「おい、詩紋。お前、よくあんな奴と付き合ってんな」
 (呆れている)
詩:「え、だって、天真先輩、怒ると怖いんだもん。適当に言うこと聞いておいたほう  がね、ラクだし」
イ:「ふ〜ん、処世術って奴か」
詩:「うん、まあね。それに天真先輩と一緒にいると、イジメっ子が寄ってこないし。
  ……でも、本当はあかねちゃんのほうがもっとコワイんだよね、大丈夫かなあ、頼久さん」
イ:「…お前も苦労してんな」
詩:「うん、やっぱりイノリ君、分かってくれるんだ」
イ:「当たり前だろっ。(オレ、あかねの世界に生まれなくて良かった…)」
 (友情を確かめ合いつつ、イノリと詩紋退場)


鷹:「……あのお二人も、毎度毎度、よく飽きませんね」
永:「まあ、平和だということでしょうか。そうですねえ…、退屈するヒマもありません  が……」
鷹:「……永泉様、もしかして、楽しんでおられませんか?」
永:「とんでもない。私は、人が争うのを見るのは嫌いです」
鷹:「しかし、お顔が……、楽しそうに笑っておられる」
永:「え? おかしいですねえ」(にっこり)

 そして、一日が平和に過ぎていった。

<終劇>

                                2000.7.7 UP


 大変、楽しく書かせて頂きました(^^。
 少将が、一番ひどいこと言われてますが、実は一番の被害者は頼久くんだと思います(^^;。

 

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