彼女が幸せになる
         いくつかの方法

                       翠はるか


《大ざっぱなあらすじ》

 ある日、散歩していた天真は、不思議な鳥を見かけ、その後を追って、一人の美少女と出会います。(いえ、CDですから、「美」少女かどうかは分からないんですが、多分そうでしょう^^;)
 その少女は、身分は高くありませんが、貴族たちの間では風流人として有名で、彼らから「鳥の姫」と呼ばれていました。
 そんな鳥の姫には悩みがありました。彼女には恋人がいたのですが、最近、その男は彼女の元を訪れなくなり、とても寂しい思いをしていたのです。その恋人とは、あのよく転ぶ貴族「まろ」でした。
 それを知った天真は、まろの所に行きますが、まろには逃げられてしまいます。しかし、ちょうどその場にいた友雅から、まろに新しい恋人ができ、そのためにまろは鳥の姫を捨てたのだと言う事を聞きました。
 天真はひどく怒りを覚え、とりあえず藤姫の離れに戻り、よりによって、あかねちゃんに相談を持ち掛けました。

 そこからの話です。

 「……つー訳なんだよ。ひでえ話だろ?」
 話を終えた天真は、憤まんやる方なしといった表情で、あかねに同意を求めた。
 案の定、彼女は何度もぶんぶんと首を縦に振って、同意を示す。
 「最っ低だよ、そんなの」
 そろって直情な性格の二人は、衝突するともの凄いのだが、人一倍義侠心も強いため、こういう件に関しては、素晴らしいコンビネーションを発揮するのだ。
 「だろ? だから、俺、何とかできないかと思ってさ」
 「おっ、偉い、天真くんっ。男の鑑(かがみ)だねっ。で、どうするの?」
 「おう。とりあえず、その貴族をどうにかとっ捕まえて、鳥の姫の所に連れて行く」
 「うんうん」
 「で、鳥の姫に一言謝らせて、改心させて、元のサヤにおさめる」
 「ええー?」
 とたんに、にこにこと話を聞いていたあかねが、表情をくもらせた。
 「何だよ」
 「いや、ねえ…。それが、その姫にとって、いい結果だとは思えないんだけど」
 今度は、天真がムッとしたような表情になる。
 「何でだよ。その男が改心して、また鳥の姫のところに戻れば済む話だろ」
 「そうかなあー?」
 天真が強い口調で言った言葉に、だが、あかねは首を傾げる。天真が更にムッとした顔になった。納得いかない。
 「なんだよ。お前、今さら、あんな男の味方すんのかよ」
 「そんな事言ってないでしょ。いい、天真くん? よーく、考えてみて」
 あかねが不意に真剣な顔になって、天真を見つめる。天真もつられたように表情を改めた。
 「なんだよ」
 「その鳥の姫の恋人って、あの『まろ』でしょ? 顔もまずいし、仕事も大してできないし、性格もひん曲がってるし、持ってるものといえば選民意識だけっていう、あの『まろ』だよ? そんな男とよりを戻して、本当に幸せになれると思う?」
 「…そ、そこまで言うか?」
 「あら、これでも控えめに言ったつもりなんだけど。ま、そんな事はともかく。鳥の姫は、むしろ別れられた事を喜ぶべきだよ。まろって、ねちっこい性格してるから、女のほうから振ったら、未練がましくすがってきて、ストーカーじみた行為に走りそうだけど、それを向こうから別れ話を切り出してくれたんだからさ。ラッキーじゃない」
 「…は、あ…。い、いや、でも、そんな男でも鳥の姫は好きなワケだし……」
 やっぱり、こいつは敵に回したくないと思いつつ、天真はかろうじて反論を試みる。が、あかねはゆっくりと首を横に振り、天真の言葉を押しとどめた。
 「逃がした魚は大きく見えるってヤツよ。なんとなく損した気がしてるだけだって」
 「い、いや…、そうかもしんねーけど……。で、でも、鳥の姫は傷ついてるんだ。どんな男でも……」
 「そう! それよ!」
 あかねが突如、大声を上げて、天真にびしっと指を突きつける。
 「わっ。な、なんだよ、いきなり……」
 「天真くん。そういう時に必要なのは何だと思う?」
 「へ? さ、さあ…」
 「んもう、鈍いんだから。新しい恋に決まってるじゃない!」
 「あ、新しい恋?」
 「そうよ。新しい恋をして、幸せになれば、まろの事なんてすぐに忘れるって。で、天真くん。そのお姫さまの邸ってどこ?」
 「鳥の姫の邸? 万里小路のほうだけど…。どうするんだ?」
 あかねがにっこりと笑む。
 「え? だって、鳥の姫って、12、3歳の美少女なんでしょ?」
 「……………」
 「でもって、まろなんかに惚れちゃうくらい、世間を知らない、深窓のお嬢さまなんだよねっ」
 どんどん弾んでくるあかねの声に、天真の額にぴきぴきと青筋が立った。
 「…お前、鳥の姫をどうするつもりだ?」
 「えっ、やだなあ。そんな変な言い方しないでよ。まるで、私が何か悪い事をたくらんでるみたいじゃない」
 「その通りだろうがっ! 冗談じゃねえ、鳥の姫までお前の毒牙にかけてたまるか!」
 「毒牙って何よ、毒牙って! ……はっ。さては、天真くん。鳥の姫の味方するフリして、実は狙ってるわね!」
 「ば…っ! んなワケあるかっ。お前と一緒にするな!」
 「ふんっ。負けないわよ。知り合ったのは、天真くんのほうが先かもしれないけど、恋愛に順番なんて関係ないんだから」
 「人の話を聞け! …お、おい、どこに行くんだよ!」
 「思い立ったら行動あるのみ、が私の信条よ。行ってきまーすっ」
 「こら、待て、あかねっっ!!」
 どたばたと出て行ったあかねを、同じく天真がどたばたと追いかけていった。


 その後、先を争うように鳥の姫の邸についた二人は、鳥の姫の前で、まるでかけ合い漫才のような争いを延々と続けた。おかげで、実はアクラムが甦らせた怨霊で、まろを連れて行こうとしていた鳥の姫も、すっかり毒気を抜かれ、めでたく昇天したのでした。


<終劇>

01.9.26up.


鳥の姫、好きなんですよねえ。こんなアホな話書いてますが(笑)。
豊口めぐみさんの声が、また可愛くて(^^。

 

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