撫子 ― いつも愛して ― |
「素晴らしい働きでしたよ、アンジェリーク」 『まどろみの村』と仇名された雷鳴の村オラージュ。白き翼の力でタナトスとその悪しき残滓を浄化したアンジェリークに、ニクスは興奮気味の表情で、賞賛の言葉を述べた。 「ありがとうございます、ニクスさん」 アンジェリークも上気した顔で、ニクスの言葉に答える。人々を救うことができた喜びで、今も心が熱かった。 「ありがとう、お姉ちゃん!」 「どういたしまして。さあ、お母さんを休ませてあげてね」 「うんっ」 救われた村人が口々にお礼を言って、彼女にとっては何よりの報酬であるとびきりの笑顔を向けてくれる。それだけで、アンジェリークは幸福な気分だった。 「ふふ、大人気ですね。さあ、アンジェリーク。そろそろ戻りましょうか。貴女も疲れたでしょう」 「はい、ニクスさん」 アンジェリークは頷き、村人たちに挨拶をしてから、街道に向かって歩き出す。だが、思っていたより疲れていたのか、帰ると聞いて気が緩んだのか、足を踏み出した途端、膝の力が抜けた。 「あ…っ」 そのまま、その場に倒れそうになる。 「あぶないっ」 すかさず、隣にいたジェイドが彼女の腕をつかんで支える。 「大丈夫? アンジェリーク」 「は、はい。ありがとうございます、ジェイドさん。助かりました」 「どういたしまして」 ジェイドは微笑み、だが、すぐに心配げな表情になって、アンジェリークの顔を覗き込む。 「顔色が悪いね、アンジェリーク。良かったら僕が陽だまり邸まで抱いていこう。これ以上、君が疲れないようにね」 「え、そんなジェイドさん」 頬を染めながら、アンジェリークは一歩後じさりする。ジェイドの言葉は、以前誰かが言っていたように、親切の域を超えているように感じさせる。 ―――と、突然、アンジェリークは背後から伸びてきた腕に、身体を抱き上げられた。 「きゃあっ」 驚きの声を上げ、慌てて振り返ると、レインの仏頂面が目に入る。 「レ、レインっ?」 「疲れているなら、俺が抱いていく」 「ええっ? 私は大丈夫よ、レイン。降ろしてちょうだい」 アンジェリークが身をよじると、レインは彼女を自分のほうに向き直らせるようにして、しっかりと抱き直す。 「いいから、大人しくしてろ」 「だって、恥ずかしいわ。本当に大丈夫よ、自分で歩けるから」 「二度も、奴にお前を持っていかれるのはごめんだからな」 「え?」 「何でもない」 レインはそれきり口を閉ざし、三人を置いて歩き出した。アンジェリークの可愛らしい抗議の声と共に。 「―――おやおや」 ニクスが肩をすくめる。 「レインにしてやられましたね」 遠のく二人を見送りながら、ジェイドも同様に肩をすくめる。 「可愛いアンジェリークを労わるくらい、僕にも許してほしいんだけどな」 「いつも自分だけを見ていてほしい―――というのが、彼の偽らざる思いなのでしょうね。なんだか羨ましいですね」 「ふうん。ニクスもやっぱりそういうこと思うの?」 「ふふっ、アンジェリークのことですからね。さて、私たちも二人に置いて行かれないように、そろそろ出発しますか」 「ああ、そうだな」 先に進む二つの影を追いながら、彼らは微笑ましさと少しの嫉妬心を胸に、陽だまり邸への家路を辿った。
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オラージュで、レインがこんな行動してくれないかな〜と思って書きました。
しかし、ヒュウガが喋ってない…(^^;。