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01 スライトキス(軽いキス)
ガウリイ×リナ(「スレイヤーズ」シリーズより)

 

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 「おばちゃーん、モーニングセット3人前ね!」
 栗色の髪の少女が目をきらきらさせながら言う。
 「あ、俺も3人前!」
 テーブルを挟んで少女の向かいに座った長い金髪の青年も、続いて声を上げた。
 「はいよっ。おふたりさん、朝から元気が良いねえ」
 宿の女将が、からからと笑って注文を受ける。
 良く晴れた朝。いつも通りの旅の空の下。
 セイルーン王国近くのとある宿屋の食堂で、いつも通り勢いよく朝食を注文する2人の姿があった。

 端から見ると、この少女と青年、少々年の差があることなどから多少人目をひくものの、どこにでもいる旅の2人連れに見える。
 しかし、もちろん単なる旅人ではない。
 少女の方は、自称「天才美少女魔道士」リナ=インバース。
 本人としてはそろそろ「超天才美女魔道士」と名乗りたい年頃らしい。
 魔道士としての腕前は、自分で天才を名乗るだけあって超一流。ただし、趣味は「盗賊いぢめ」というあたりが問題だが。
 「悪人に人権はない」と言い切る彼女。暇を見つけては盗賊団のアジトを襲い、構成員を魔法で叩きのめしたあげく、彼らの持っているお宝を巻き上げるのが三度の飯と同じくらい好きなのだ。
 本人曰く「盗賊捕まえてさらに懐も満たされる、世のため自分のために有意義で有益な」趣味なんだそうである。
 おかげであちこちの盗賊団を壊滅させるわ、騒ぎと聞けば首を突っ込むわで、付いた二つ名は「盗賊殺し」やら「ドラまた(ドラゴンですら関わり合いになりたくなくてまたいで通るの意)」やら、ろくなものがない。
 …と、これを本人に言うとお得意の呪文で吹き飛ばされるのが落ちであるので、このくらいにしておこう。
 一方、彼女の連れの青年は、リナの自称「保護者」ガウリイ=ガブリエフ。
 金髪青目の美形で長身、と世の女性が思わず振り返ってしまうような容姿の上に、剣士としての腕は超一流。
 数々のやっかいごとに首を突っ込む癖のあるリナと数年前に旅を始めて以来、ずっとその剣の腕前で彼女をフォローし続けている。
 ただし、天が彼に与えたのはこのあたりまで。なぜか頭の中身が追いつかず、リナに言わせれば「頭の中身はくらげ並み、脳みその代わりに、ふえるワカメやふやけたパスタが詰まっている」とのこと。
 本当にアホなのか、単にとぼけているだけなのかはともかくとして、記憶力のなさとボケたリアクションには定評がある。…あっても仕方ないのだが。
 とまあ、一癖もふた癖もあるこの2人組。実は、人間にはとうてい太刀打ちの出来ない存在のはずの魔王の分身と高位魔族数体を滅ぼし、下級魔族に至っては倒した数は数知れず、というかなり派手な(人間離れした、ともいう)経歴を持っているのだ。
 もう少し時代が下ると、「魔を滅する者=デモン・スレイヤーズ」として、世の少年少女のあこがれとなる2人であるが、現在のところ、そこまでの有名人ではない。
 とりあえず魔族にそこそこ顔を知られてしまっている他は、盗賊などちょっと後ろ暗いところのある業界の人々の「オトモダチになりたくない奴ら」ランキングで常に上位を保っている程度の有名人である。

 そんな2人であるが、彼らを知らない人々から見れば、確かに単なる旅人にしか見えない。
 加えてこの2人は、「保護者」の立場からなかなか踏み出しきれなかったガウリイの態度と、恋愛面に関してだけは恐ろしく鈍いリナの性格とが災いした苦難(主にガウリイの)の末に、様々な紆余曲折を経て、ようやっと最近「保護者と被保護者」の関係から、どうにか恋人と言える関係になったばかりである。
 おかげで最近、この2人が楽しそうに話しながらメニューを見たりしている風景は、周りの人々に「初々しい2人だなあ」などと思わせるような雰囲気がある。(とは言っても、数年来一緒に旅を続けていた間柄であるために、時々、既に熟年夫婦のノリが見えないでもないあたりがこの2人であるが。)
 ただし、くどいようだがあくまでこの2人の性格等々を知らない場合に限る。
 今回2人が泊まったこの宿の女将は、幸いにして彼らの経歴やら何やらは全く知らない善良な一般人であるので、沢山注文をしてくれるお客には嬉しそうに料理を運んできてくれたのだった。

 「…で、(もぐもぐ)昨日言ってた神殿に行ってみるのか?リナ」
 モーニングセットのベーコンを3枚ほど口に押し込みながらガウリイが尋ねた。
 「あ、これちょーだいっv」
 フォークが彼の口に入った隙を見て、リナはガウリイの皿の上のポテトを自分のフォークで突き刺す。
 「ああっ!俺のイモ!」
 口にベーコンを入れたままガウリイが叫ぶ。
 「隙を見せるあんたが悪い!それより、口にモノ入れたまんましゃべんないの」
 「リナが先に手え出したんだろが」
 それならばとガウリイはリナのベーコンをフォークでさらおうとする。
 しかし、それはさせるかとばかりにリナは右手に持ったナイフでガウリイのフォークをブロックする。
 「汚ねえぞ!取ってったイモの分寄こせよ」
 「あたしの朝ご飯はあたしのもの、あんたの朝ご飯もあたしのものよっ!」
 フォークを持ったガウリイの左手と、ナイフを持ったリナの右手が皿の真上で押し合って膠着状態になる。
 「いつからそーゆーことになったんだよ!」
 「今からよ!」
 言いつつリナは左手のフォークで、ガウリイの皿の上にあったポテトをもう一つ刺して素早く口に放り込んだ。
 「またかっ!言ってるそばから取るなっ!」
 「(もぐもぐ)残念でした」
 悔しがるガウリイと、なおもナイフでガウリイのフォークを押しやりながら、ふふん、と得意がるリナ。
 さながら果たし合いのように、お互いがお互いの目を真剣に見つめ合う。
 自由な状態になっているリナの左手のフォークとガウリイの右手のナイフは、相変わらずお互いの皿の上の食べ物を狙い飛び回っている。
 2人とももぐもぐと口を動かしながらお互いのナイフとフォークの攻防を激しく繰り広げ、大声をあげなからも、ものすごい勢いで皿の上の物を口に入れていく。
 周囲の宿泊客は唖然としながら2人の様子を見ている。見かねた女将がため息をついて声をかけた。
 「お客さんたち、元気がいいのは良いんだけど、周りのお客さん達に迷惑になるからもうちょっと静かにやってくんないかねえ…」
 しかし、2人とも宿の女将の困ったような台詞が耳にはいっている様子はない。
 「ああっ!それ、俺が最後にとっといた腸詰め!」
 「ふふん。もう貰っちゃったもんねv」
 女将はやれやれと肩をすくめると、厨房の奥へと入ってしまった。
 …まあ要するに、いつも通りのお食事バトルの風景がしばらく続いたのだった。

 「それで、さっきの話だけど」
 一通り食べ終わって食後の香茶を飲みながら、リナが切り出した。
 2人が激しいバトルを繰り広げているうちに、他の客はほとんど食堂を出て行ってしまっていた。
 おそらくこの騒がしい2人と関わり合いになる前に、さっさと退散したのだろう。
 とまあ、そんなことは当人たちは気にしてなどいないが。
 「…さっきの話ってなんだ?」
 ガウリイがきょとんとした顔で聞き返した。

 すぱあああああん!

 リナがスリッパでガウリイの頭を思い切りはたく音が、宿の食堂に響いた。
 「自分がふったんだろーが!忘れてどうする!」
 「いやー、お前さんが人の皿に手え出してくるからさ、すっかり忘れちまった」
 「そんなの、いつものことでしょーが」
 「…おいおい」
 さらりと流すリナに、ガウリイは苦笑する。
 「だから、昨日言ってた神殿の話よ」
 「おおっ、それだ、それ」
 ぽん、と手を打つガウリイ。リナはそれを横目で見つつも、話が進まないのでとりあえず今度は突っ込みを我慢する。
 「何だか面白い魔法道具があるっていうところなんだろ」
 「そうなのよ。結構昔に使われなくなった神殿らしいけど、噂だとかなり面白そうなのよね、そのアイテムって。まあ、噂になるってことは色々といわく付きの物らしいけど」
 そう言うと、リナは香茶を一口すすった。ガウリイが少し眉をひそめる。
 「また魔族がらみとかか?」
 「さあ、そこまでは分からないけど。そんなに面倒くさそうな雰囲気ではなかったわね。ただちょっと、道が分かりづらいみたいで…せっかく盗賊の根城なんかも近くにあるらしいのに」
 「って、おい、また盗賊いぢめに行くのが目的だったりするんじゃないだろうな!?」
 相変わらず、リナの盗賊いぢめの趣味を快く思っていないガウリイの言葉に、リナはにっこり笑う。
 「あらー、あくまであたしはアイテムが主目的よvv」
 「主目的ってことは、主じゃない目的もあるってことだよな」
 「まー、ガウリイにしては珍しく鋭いわねvv」
 「ハート飛ばして誤魔化すんじゃない」
 「で、その場所なんだけど…あ、地図、部屋に忘れて来ちゃった。脳みそヨーグルトのガウリイじゃあるまいし、肝心なもの忘れちゃダメよね」
 まだ自分をにらんでいるガウリイを無視して、リナは椅子から立ち上がった。
 「ガウリイちょっと待ってて。取ってくるから」
 「あ、こら待てリナ!」

 そのままリナは、宿の一階にある食堂から二階の客室へと続く階段をへと身を翻した。
 しかし、2、3段上りかけたところでぐいっと脇から腕を掴まれて、リナの体勢がぐらりと崩れる。
 「ちょっと、ガウリイ!?危ないじゃない」
 リナが慌てて体勢を立て直しつつ体半分だけ振り返ると、彼女を追いかけて席を立ったガウリイの顔が目の前にあった。
 『どうしたの?』と言おうとしたとたん、リナの唇を何かが掠める。
 軽く、しかし暖かく柔らかな、確かな感触をしっかりと残していったそれは、ガウリイの唇だった。
 「なっ!!」
 目の前には、晴れた空に似ている蒼い瞳。一瞬の間を置いて、それが柔らかく笑った形になった。
 「俺も、忘れ物してたんでね」
 突然の出来事に言葉が出てこないリナに向かって、ガウリイが楽しそうに言う。
 「今朝はお前さん、起きたらすぐ腹減ったって言って朝飯食いに行っちまっただろ。だから、おはようのキスをまだしてなかった。ほら、また忘れないうちにしないとな」
 そう言って、ガウリイはにやりと笑う。
 「あんたって人は、オトメに対してこんな公共の場でなんつー破廉恥なことを!!」
 「乙女って、お前もう違うじゃないか」
 「だから、そういう恥ずかしいことをこんなとこで言うなあああああ!!」
 真っ赤になりながら、スリッパを取り出したリナの右手をすばやくガウリイは掴む。
 「そうそう、忘れないうちにといえば、さっきの腸詰めの分も貰っとこうかな。いやー、あれ食べたかったんだよなあ」
 「…あれ、まだ根に持ってたのか。って、何を貰うつもりだ!!」
 「そりゃもちろん…」
 またもや顔を近づけてくるガウリイ。

 間違いない、こいつは最初っからこのつもりでいたに違いない。
 あたしが無防備になりそうな瞬間があれば、別に口実は何だって良かったんだろう。
 ―――――この、どスケベくらげっ!

 心底楽しそうなガウリイを見ながら、リナは自分を掴む腕を振り切ろうと抵抗する。
 だが力の差はかなうわけがなく、そうこうしているうちに、下のほうへぐいっと体を引き寄せられてしまう。
 そのとき。
 「あらあ、お客さんたちってば、ホント朝から元気がいいねえ」
 厨房から宿の女将が顔を出した。
 「若いってのは良いもんだねえ」
 そう言って、女将はにかっと笑った。
 その顔を見たとたん、リナの顔が青くなり、そして急激に赤くなる。
 「離せっ、このどスケベっ!火炎球(ファイヤー・ボール)!!」
 そして、ガウリイは宿の外まで吹っ飛ばされたのだった。

 その後、
 「あのねえ、お譲ちゃん。確かに元気がいいのは良いことだけどさ、いくら何でも、うちの宿壊されちゃ困るよ」
 と女将に説教をされた上、2人が修繕費用を弁償させられたのは言うまでもない。
 もちろん、リナはガウリイの財布からほとんどを出させたらしいが。

 ―――――そんな風景もまた、この2人の「いつも通り」なのかもしれない。



返す返すも今更ですが、ひょんなことからすっかりはまりこんでしまった「スレイヤーズ」です。
昔、「たまたまテレビをかけたらアニメの第一回放映日だった」というご縁でアニメは見てたんですけどね。
先日調べ物をしてたときにこれ関係の色々なサイトを見つけて、そのままどっぷりと…という感じで。
「いい大人が少年少女向けの本やら漫画やらを、古本屋で十数冊積み上げて買っていく」という風景が
自分のことながら非常に恥ずかしかったのですが、思わず昔に帰って一生懸命読んでしまいました。

今回は原作からのネタもかなり入っていますが、
ガウリナの関係はアニメの「NEXT」最終話〜「TRY」第一話までくらいのつもりです。
お互いがお互いの気持ちに気づいたらしい(特にNEXT最終話ですが)頃で、
要は、「おそらくここで2人は『出来上がった』はずだ」と言われている時期ですが(爆)

そういえば自分、アニメ放映当時は「そっかー、ガウリイとリナって『そういう関係』だったのか。
あ、ゼルガディス&アメリアも好きだなあ、でも一番好きなのはゼロスかな」とか思っていました。
今はすっかりガウリナすきーなんですが。
「超奥手な青年と恋愛関係に鈍い少女」という関係が色々と妄想をかきたててくれて楽しいんですよ(笑)

リナとガウリイの食事風景は一度書いてみたかった場面です。
あと、2人の紹介文(悪口にあらず(笑))書いてるときがめちゃめちゃ楽しかったです(笑)
(2004.6.26)

 

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