09  自由(不意打ち)

 

香穂子が、手すりにもたれて正門の様子を見つめている。
そんな彼女に、俺はそっと近付いた。

「―――香穂子」
「はい……、!!!!?」

振り返った香穂子の口唇を奪った瞬間、
彼女は咄嗟に逃れようと身じろぎする。

もちろん離さないけれど。

「先輩、不意打ちはずるいですよ!」

真っ赤になって抗議する香穂子を、俺は微笑を浮かべて見つめる。
あいにくだけど、俺は不意をつくのが好きなんだ。

お前とキスするのは気持ちがいいし、
お前の驚いた顔も見られるからな。

香穂子が全く迫力のない目で俺を睨む。

「先輩はもう……。嫌いになっちゃいますよ?」

最近は、ずいぶんと強気な発言もするようになった。
それを楽しい、と思っている事は教えてやらないよ。

代わりに、にっこりと笑顔を浮かべてみせる。

「そんなに、いじめられたい?」
「…うう…。怒ってるの、私のほうなのに」

香穂子はぶつぶつ呟きながらも、
彼女を抱きしめている俺の腕に、自分の手を重ねる。


――― こうやって俺を許してくれる瞬間も好きなんだ。

 

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