セレナード挿絵サンプル1
弓に手をかけると、手が弓に引っ張られるように、すっと動いた。 「ひゃっ」
「落ち着け。そのように、技術的なことはヴァイオリンが教えてくれるのだ。お前は、ヴァイオリンの言うことを素直に聞いていればよい」 そ、そう言われても…。 戸惑っている内に、ヴァイオリンは勝手に演奏の準備をしてくれる。便利といえばそうだが、妙な感じだ。 「ちょ、ちょっと、何この体勢。きついよ」 ヴァイオリンを構えてみて、香穂子は悲鳴をあげる。手首は変にひねっているし、腰もねじった状態だ。 「すぐに慣れるのだ。では、なんでもいいから、お前の好きな曲を思い浮かべながら弾いてみろ」 「す、好きな曲?」
−−−「セレナード」10pより