朧 月                                by  翠 はるか


  『――――泣かないで、私の愛しい人。』


 君が去ってから、もうどれくらい経ったのだろう。
 時間は悲しいくらいに、変わらず過ぎていく。
 君がいなくても、日は昇り沈む。風のそよぐ音も、焦がれ鳴く虫の声も、少しも変わらない。
 けれど、ひとつだけ変わった事がある。

 私は朧月がきらいになった。
 闇の中ににじむ月は、まるで君が泣いているように見えるから。

 君は、今ごろどうしているんだろう。
 あちらの皆と、元気に暮らしているだろうか。
 たまには、こちらの世界の事を話したりしている?
 それとも…、もう忘れてしまったかい?
 もう、新しく心を分け合う相手を見つけてしまった?

 『私を忘れても構わないよ』

 別れのあの日、君に告げようと思っていた言葉。
 思い出として君を縛るのが嫌で、告げるべきと決めていた言葉。
 けれど、その言葉を、私は今でも口にできない。

 私は、君に忘れられたくないよ。
 君の心の片隅にでも、ずっと息づいていたい。
 薄れない記憶も、永遠に続く約束も存在しないと知っているのに、願わずにはいられない。
 君がその瞳で他の誰かを愛し、その口唇で他の誰かに愛を囁くのかと思うと、この胸が焼きついてしまいそうだ。
 離れてしまった今でも、君はこんなにも強い感情を私にくれる。

 私はきっと今でも、君に恋をしている。
 たとえ二度と会えなくても、想う事はできるから。
 だから、私は自分の選択を後悔した事はないよ。

 ―――…ただ、確かにこの腕にあったぬくもりに二度と触れられないのが、どうしようもなく寂しい…。


――― 了 ―――

 

現代に帰った恋人を想う友雅。
お相手は、あかねでも蘭でも天真でも詩紋でも(え)、お好きな方を想像してください(^^。

 

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